小型家電のACアダプターが壊れた時の応急処置として常備しておきたいのがマルチ電圧出力のACアダプター。1個あると便利ですよね。
今回はUSB PD充電器を使ってマルチ電圧ACアダプターを作ってみました。
今どきUSB
PD充電器は種類も豊富なので比較的安価に、しかもコンパクトに作ることができました。
以前、USB PD充電器を使って可変安定化電源を作る記事を書きましたが、今回はACアダプターとして使うことに特化して、ACアダプターとして使う信頼性などのポイントを中心に紹介します。
以前、USB PD充電器を使って可変安定化電源を作る記事を書きましたが、今回はACアダプターとして使うことに特化して、ACアダプターとして使う信頼性などのポイントを中心に紹介します。
■USB PD充電器をマルチ電圧ACアダプターとして使ってみる
●作成するACアダプターシステムの目標仕様
今回作成するACアダプターシステムはDC5V,9V,12V,15V,20Vに対応し、45Wまで出力可能なモノを目指しました。
- 入力:AC100V-240V 50/60Hz
- 出力:5V, 3A / 9V, 3A /12V, 3A / 15V, 3A / 20V, 2.25A
- 出力端子・ケーブル:
- DCプラグ 5.5mm*2.1mm
- プラグの極性:インナープラス(+)、アウターマイナス(ー)
- ケーブル長:1m以上
- そのほか:できるだけコンパクトに
●使用するハード
・USB充電器(USB PD対応 45W)
USB PDに対応していて出力電圧が5V,9V,12V,15V,20Vのモノを使ってみました。
主な製品仕様(Amazon商品ページより):
- 入力:100-240V 1.0A 50-60Hz
- 出力:9V=3A ; 12V=3A; 15V=3A ; 20V=2.25A
- PPS:3.3V-16V=2.8A
- 最大出力:45W
- サイズ:約 60 × 35× 35 mm
- 重さ:約 65 g
DC20Vまでの出力電圧に対応しているので、今回の用途にはバッチリです(USB
PD充電器は対応している出力電圧が機器毎に異なるので(20Vに対応していないものもあります))。
安価な45Wの割にコンパクトですね。PSE(電気用品安全法)マークもあって安心です。
これは結構小さいと思います |
価格はAmazonプライムデーで1359円でした。
・USB PDトリガー(デコイ)
USB PD充電器と接続し、DIPスイッチの設定によりUSB
PD充電器から取り出す電圧を変更する(5V, 9V, 12V, 15V,
20V(最大100W))ことが出来るガジェットです。
PDSink PD デコイ QC PD 高速充電テストボード 調整可能な電圧 5V-20V ダイヤルコード調整 充電コネクタ テストボード 電子 - Amazon |
本機が今回のシステムの肝です。Amazonで657円でした。
本機の出力は100Wまで対応しているので、充電器を100Wのモノにすれば今回のシステムは100Wのモノを構築することができます。
本ガジェットの詳細はこちら(本ブログ内リンク)『USB PD充電器を可変安定化電源として使ってみる
(PDSink PD デコイ使用)』をご覧ください。
リンク(本ブログ内):『USB PD充電器を可変安定化電源として使ってみる (PDSink PD デコイ使用)』 |
・DCプラグ付きケーブル
しょぼい(細い)ケーブルを使うと大電流時に(ケーブルの抵抗で)電圧が落ちてしまうので、それなりに太いケーブルを選択しました。
今回使ったのは(我が家にあった)壊れたACアダプター(出力DC9V,
2.5A)から切り取ったDCプラグ付きケーブルです。
壊れたACアダプターから切り取ったDCプラグ付きケーブル |
- DCプラグの仕様:
- サイズ:外径5.5mm*内径2.1mm*長さ10.5mm(樹脂部外径:8.0mm)
- センター電極:フォーク形(極性は選択可能)
- ケーブルの仕様:
- 長さ:約1.5m
- 太さ:AWG20
- 耐圧:300V
- 耐熱温度:80℃
- このプラグは金属部が長く樹脂部外径が細いので、大抵の機器のDCジャックに挿入できると思います
- ケーブル太さがAWG20なので今回の用途(45W, 最大電流3A)でもいけそうですね(結果は後述します)
- 柔らかい平行線のケーブルなのでUSB PDトリガーの出力端子部への負荷(応力)が少なく、端子のハンダ付け部の接触不良が起きづらいと思います
・USB type-Cケーブル
USB
PDの45W以上に対応していれば100均のモノでもなんでも良いと思います(本システムは充電専用なので、柔らかい(通信はUSB2.0の)ケーブルの方が使い易いと思います)。
100均のUSB PD対応type-Cケーブル(3A) |
・総材料費
上記以外にちょっとした小物が必要なのですが(後述します)、総材料費は2000円程度です😋(DCプラグ付きケーブルを別途購入しても2500円程度で済むと思います、)。
●作成のポイント
・USB PDトリガー(デコイ)の絶縁
USB
PDトリガー(デコイ)の裏面はハンダ付け部や部品がむき出しなのでこのままだと使用中に故障する恐れがあります。
USB PDトリガー(デコイ)の裏面(基板面)は丸裸(むき出し) |
そこで今回は接着剤を使って絶縁することにしました。
接着剤が硬く硬化するタイプだと基板上の部品のハンダ付け部にストレスがかかって故障の原因になる恐れがあるため今回は硬化してもある程度柔らかいシリコンボンドを使用しました。
信越 一般工業用RTVゴム 100g 透明 KE45-100TM(トウメイ) - Amazon |
電気的な絶縁用のボンドです。今回の用途にはピッタリですね。
主な製品仕様(Amazon商品ページより):
- 色:透明
- 容量:100g
- 主成分:シリコーンゴム
- 耐熱温度:180℃
- 使用温度範囲:-40℃~180℃
- ペースト状
- プライマー不要
- 電気絶縁用のほか一般シーリング用にも使用できます。
- 硬化時に悪臭がなく、金属に対する腐食の心配もほとんどありません。
- モルタルや白セメントのようなアルカリ物質にも優れた接着性を示します。
- 電気・電子機器、一般工業用シーリングに最適です。
硬化時間に関しては製品の箱を含めて仕様をみつけられませんでした。
非公式情報(?)をググってみると:
耐熱性250℃、耐寒性-50℃で、耐水性に優れ、弾力性が持続します(連続使用:-40℃から+80℃)。20から30分で表面が硬化し、15から16時間で全体にほぼ固まり、3日から1週間で完全に固まります
とありました。温度等が製品仕様と異なるので違う製品の硬化時間なのかもしれませんが、似たようなものだとすれば硬化にはだいぶ時間がかかりそうです(実測結果は後述します)。
本ボンドの使い方ですが、USB
PDトリガー(デコイ)の部品(DIPスイッチや出力端子)の足は結構長いので100均のマスキングテープで基板端を覆ってボンドを(部品の足が十二分に隠れるまで)多めに塗布(充填)します。
USB PDトリガー(デコイ)の裏面(基板面)はシリコンボンドで絶縁 |
ボンドの硬化にはだいぶ時間がかかります。1時間程度では(お試しでも)まだ触らないほうが良いと思います(まだ指にくっつくかもしれません)。半日(12時間)ぐらい経つと安心して触れるようになり、容易には剥がれたりすることもなくなりました。
ボンドが硬化するとこんな感じです。基板面の部品等の電極はバッチリ覆われて絶縁されています。触ってもぷにぷにとしていて柔らかく、ハンダ付け部にはストレスはかかっていないようです。
柔らかいボンドなのでハンダ付け部にストレスはかかっていないようです |
・DCプラグ付きケーブルの取り付け
今回選択したDCプラグ付きケーブルは芯線がそこそこ太いのでUSB
PDトリガーの出力端子(スクリューターミナル)への挿入がちょっと手間です(出来なくはないのですが)。
というか出力端子の穴(挿入部)が小さすぎます。
USB PDトリガー(デコイ)の出力端子(スクリューターミナル)は線を通す穴(挿入部)が小さい(これ以上、上下に広がりません) |
(この端子(ターミナル)の本体には電流定格10Aの表示があるのですが適合する電線が異常に細いのはなんなんでしょうね。)
そこで平型の圧着端子を使うことにしました。
エルパ (ELPA) 絶縁ブレード端子 18.0mm 10個入 圧着端子 配線 V1.25-1AF PS-686H - Amazon |
メーカー(ELPA)製品ページより |
適合電線は0.25~1.65mm2なので、今回のケーブルAWG20(断面積0.531mm2)でもOKです。
この端子なら大丈夫だろうと思っていたのですが、この平型端子の幅(2.8mm)は微妙に広くUSB
PDトリガーの出力端子に挿入できませんでした。
なので平型端子部をヤスリで削って幅を細くしました。
圧着端子の幅を2.5mm程度まで削りました |
圧着端子は比較的柔らかい素材(黄銅)なので簡単にヤスることができます。
無事にUSB
PDトリガー(デコイ)の出力端子(スクリューターミナル)に圧着端子が収まりました。
次は線と圧着端子の圧着です。
通常、圧着は端子部分(今回は平型部)と平行な方向に行いますが、今回はUSB
PDトリガーに取り付けた時に端子同士が干渉しないように縦(垂直)に圧着しました。
今回は圧着する方向にコツが要ります |
電工ペンチを使ったので縦(垂直)方向の圧着も簡単にできました😋。
我が家の電工ペンチ:マーベル(MARVEL) No.400-A |
圧着端子取り付け後のケーブルをUSB
PDトリガー(デコイ)に取り付けるとこんな感じです。(DCプラグのインナー(内側)・アウター(外側)とUSB
PDトリガー(デコイ)のプラス・マイナスの極性を間違わないように。)
DCケーブルの取り付け完了~ |
・仕上げ
最後にUSB
PDトリガー(デコイ)のDIPスイッチの設定を書いたタグを取り付けて本システムの主要部は完成です。
本システム主要部の作成完了~ |
完成したシステム全体はこんな感じです。
●使用感
システムの動作確認はこんな感じで電子負荷を使って行いました。
ごちゃごちゃした画像ですみません🙇🏻♀️ |
ここで確認するのは今回のシステム全体というよりはUSB PD充電器の性能ですが😅。
・出力電圧の負荷安定度
本システムのケーブルも含めた負荷安定度(ロードレギュレーション)を確認しました。
(出力電圧の測定ポイントはDCプラグ付きケーブルのDCプラグ)
我が家の電子負荷は35Wまでしか対応していないので、20V, 15Vの時は最大出力まで測れませんでした |
(※USB
PDトリガー(デコイ)を12Vの出力設定にしても9Vしか出てきませんでした。トリガー側の不具合は今のところ見当たっていないので(他の充電器では12V出ます)、充電器側の個別不良でしょうか。)
無負荷(0A)と3A流した時の出力電圧を比較すると0.8V程度あります。出力電圧が低いときにはちょっと大きい電圧降下ですよね。
USB type-CケーブルとDCプラグ付きケーブル(AWG20ケーブル)の抵抗を考えると、ケーブルだけで最大0.86V程度電圧が降下します。USB PDトリガー(デコイ)やコネクタ等の接触抵抗も含めると今回の電圧降下(負荷安定度)は妥当ですかね。
理論値は以下の通り:
- USB type-Cケーブルの抵抗値は実測で0.179Ω程度(USBケーブルチェッカー使用)なので3A流した時のこのケーブルでの電圧降下は約0.537V
USBケーブルチェッカーでケーブル抵抗値を実測 |
- DCプラグ付きケーブルで使っているAWG20ケーブルの導体抵抗は最大0.037Ω/m程度。なので今回のケーブル長1.5m(両極(プラス・マイナス)で考えると3m)の抵抗値は最大0.111Ω(=0.037Ω/m*3m)。このケーブルに3A流すと電圧降下は最大0.333V(=0.111Ω*3A)
以上の2つのケーブルの電圧降下を合わせると最大0.87V
3Aに近い電流で使う為にはUSB
type-CケーブルとDCケーブルは抵抗値の低いもっと短いものか太いものを使ったほうがよいかもしれません。
・温度上昇(充電器の寿命確認)
充電器の寿命が気になったので、今回の測定で損失が一番大きくなった9V,3A(損失5.05W)の条件で充電器のケース温度を測ってみました。
充電器のケース温度を測定しました |
結果は
- USB PD充電器ケース表面の温度上昇:28.1deg(度)
温度が飽和するまで約2時間かかりました |
充電器の内部で使っている部品(特に電解コンデンサ)の寿命が分からないのですが、充電器のケース温度が30deg(30度)弱上昇しているので内部はもっともっと上がっていますよね。
常時限界近い電流(3A)で使うとあっという間に充電器くたびれて寿命がきてきまうかもしれません。
●改善したい点
- 本システムの出力電圧は組み合わせる充電器の仕様に依存してしまうので、PDトリガー(デコイ)には超小型の電圧表示が欲しいところです。
- 充電器とUSB PDトリガー(デコイ)間のUSB type-Cケーブルは短くて(全長5cmぐらい)柔らかくて抵抗値の低いモノないですかねぇ~(PD専用の充電専用でいいんだけど)。
いつも思っていることなのですがUSB
type-C(3.0~)は線が太いのでコネクタ部の接触不良が心配なんですよねぇ~。
以下のような首振り(?)型の変換コネクタのUSB
type-C版もあったらいいなぁと常々思っています。
こういう変換アダプターのUSB type-C版が欲しい(Groovy USBコネクタ GM-UH006B - Amazon) |
●まとめ
小型家電のACアダプターが壊れたときの暫定アダプターとしては十分でしょうか😋。コンパクトに作ることができて満足です。
100均ケーブルよりコストがかかりますが…😅 |
今回のシステム(?)はUSB充電器を100W対応のモノにすればそこまで対応出来ます。
(ケーブル類は今回使用したものより太く(or
短く)する必要があると思います。)
【おまけ】本システムでUSB電流・電圧チェッカーを使う
本システムの出力可能な電圧は使用するUSB
PD充電器の仕様によって左右(制限)されます。(USB
PDトリガー(デコイ)が20Vの設定でも、充電器が20Vに対応していなければ20V出ません。当たり前😅ですが…。)今回使った充電器も(個別不良かもしれませんが)12V設定で9Vしか出ませんでしたし…。
なので常時電圧(および電流)がモニターできればベストですよね。
という訳で、我が家のシステムでは(ちょっと費用は増しますが)電流・電圧チェッカーを追加してみました。
・使用するハード(USB type-C電流・電圧チェッカー)
見つけた安い電流・電圧チェッカーはコレです。
YOJOCK USB電流 電圧チェッカー 電流双方向対応Type-C USBテスター 多機能カラー大画面表示(ケーブル付きモデル)4-30V 0-6.5A - Amazon |
主な製品仕様(Amazon商品ページより):
- モデル:KWS-066C
- 電圧:4-30V
- 電流:0-6.5A
- 電力:0-195W
- 負荷抵抗:1-9999.9Ω
- 時間:0-99 h
- 温度:0-80℃
- テストの方向:双方向
- コネクタタイプ:Type-C(オス) Type-C(メス)
- 重さ:20g
- サイズ:143.5(ケーブル長さ) x56.8(本体) x 25.8mm
Amazon商品ページより |
それにしても短くて抵抗値の低いUSB type-Cケーブルが欲しいです… |
・使用感
負荷を繋ぐ前に出力電圧を確認できるので狙い通りです。
ですが、本チェッカーの入出力間の抵抗値を測定したところ約0.05Ω(50mΩ)でした。3A流す場合だと0.15Vの電圧降下(ロス)が発生します。大電流で使うときにはこの電圧降下を頭に入れつつ使う必要がありますね(システム全体のケーブルを短くするとか)。