PCを使ってオーディオ用の歪率計を安価に実現する(WaveSpectra, behringer UMC202HD使用)

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オーディオアンプ等の低周波機器の自作を始めると欲しくなるのが歪率計ですが、趣味の電子工作で使うには専用機はべらぼうに高いのでPCを使って構築してみました。

今回はこの内容の紹介になります。


■PCを使ってオーディオ用の歪率計を安価に実現する

●使用するアプリ・ハード

・アプリ(オーディオアナライザ:WaveSpectra)

使用するPCアプリ(オーディオ信号分析器)はコレです。
高速リアルタイム スペクトラムアナライザー WaveSpectra

サウンドデバイスを介してPCに入力されるオーディオ信号を分析するアプリです。
歪率の測定のほかにも、スペアナ(FFT)、S/N、RMSなどなどの多種多様な測定が行えます。

本アプリは無料です。
アプリの開発履歴をみると最新版(V1.51)は2012年リリースのようですがWindows 11でも使えます。いまだにここまでやってくれる無料アプリは他には無いと思います。


・ハード(USBオーディオインターフェース:behringer UMC202HD)

被測定機からのアナログオーディオ信号をデジタル信号に変換するサウンドデバイス(USBオーディオインターフェース(AD/DAコンバーター))です。
今回購入したのはコレです。
Behringer(ベリンガー) ベリンガー 2入力2出力 USBオーディオインターフェース UMC202HD U-PHORIA - Amazon

本機はそもそも楽器やマイク音声を入力して録音するために設計されたDTM用のオーディオインターフェースですが、今回は測定器(オーディオアナライザ)の入力として使ってみることを閃きました💡。
Amazon商品ページより)

量子化ビット数/サンプリング周波数は24Bit/192kHz、最大入力レベルは+22dBu(9.76Vrms)なので、測定器としても結構いけると思います。

Amazonで11,980円でした(Amazonアウトレット品)。コンシューマー向けの製品なので需要もあるのでしょう、お手頃な値段ですね。
本格的なオーディオアナライザの価格は桁が違うので、このインターフェースを測定器として使えれば格安ですよね😋。


- 製品仕様(メーカー商品ページ取説より)

  • USBオーディオインターフェース
  • 同時入出力数:2in/2out
  • 入力(マイク/ライン/Inst※):
    • 端子: XLRと標準フォーンジャック(3P)の複合型端子×2 ※Inst入力はスイッチ切替
    • インピーダンス: 3kΩ(マイク)、1MΩ(Inst)
    • 最大レベル: +2dBu(マイク)/+20dBu(ライン)/-3dBu(Inst)
    • 周波数特性:10Hz~50kHz(0/-3dB)
    • ファンタム電源:+48V(ON/OFF可)
  • 出力(ライン/ヘッドホン):
    • ライン端子: 標準フォーンジャック(3P)×2
    • ヘッドホン端子: 標準フォーンジャック(3P)×1
    • 最大レベル:+3dBu
    • 周波数特性:10Hz~43kHz (0/+0.3dB)
  • ダイナミックレンジ:110dB(Aウェイト)
  • AD-DA変換:24bit、44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz
  • USB:USB 2.0、B型
  • 電源:USBバスパワー
  • 消費電力:最大2.5W
  • 寸法(W×H×D):170×46.45×125mm
  • 質量:500g
  • 対応OS:Windows XP/Mac OS X以降
付属品(※1):USBケーブル(ケーブルタイは付属品ではありません)

※1:今回購入したのはAmazonアウトレット品なので新品の場合は取説等の付属品があるかもしれません。

性能について言えば流石ベリンガーですね、本機は安価な製品ですがDレンジは110dBを謳っています。
他メーカーでもっともっと安い(24bit/192kHz対応の)USBオーディオインターフェースはありますが、(測定器としてのアナログ性能の高さ考えて)ここは奮発してベリンガーを選んだ甲斐があるというものです😋。

小型・軽量なのも、(常設実験机の無い我が家では😅)とても魅力です。


●使い方・設定方法

・ハード(behringer UMC202HD)

ここではUSBオーディオインターフェースのPCドライバーのインストール方法とPCでのデバイスの設定方法について紹介します。


- ドライバーのインストール

取説(クイックスタートガイド)に従ってPCにドライバーをインストールします。
(ドライバーはbehringerのダウンロードセンターにて製品品番『UMC202HD』で検索すればダウンロードできます。私は『UMC ドライバー 5.57.0 (Windows 10 + 11 用)』をダウンロードしました。)

本機とPCを繋ぐと我が家のPCでは本機は以下のように認識されています:
  • オーディオ出力:『OUT1-2』
  • オーディオ入力:『IN1-2』, 『IN1』, 『IN2』
『スタートメニュー>設定>システム>サウンド』画面では以下の通りです。

出力
USBオーディオインターフェース(出力)のPC上での認識(Windows 11画面)

入力
USBオーディオインターフェース(入力)のPC上での認識(Windows 11画面)


- 量子化ビット数/サンプリング周波数の設定

量子化ビット数/サンプリング周波数を変更するには上記画面でデバイスの右端の『>』を選択し、『形式』で設定します。

出力『OUT1-2』の設定画面はこんな感じです。
出力『OUT1-2』の量子化ビット数/サンプリング周波数の設定(Windows 11画面)

または『コントロールパネル>ハードウェアとサウンド>サウンド>OUT1-2>プロパティ>詳細』画面で設定します。
出力『OUT1-2』の量子化ビット数/サンプリング周波数の設定(Windows 11画面)

入力『IN1-2』, 『IN1』, 『IN2』の量子化ビット数/サンプリング周波数の設定方法も同様です。


・アプリ(WaveSpectra)

ここではアプリの設定と測定方法を紹介します。
WaveSpectra画面


- 各種設定

歪率(THD,+N)を測定するために必要な設定は以下の通りです。


入力(録音)デバイス・フォーマット
画面右上の『設定(スパナ🔧)』ボタンを押下すると設定画面が現れます。
WaveSpectra画面

ここで『再生/録音』を選択し設定します。
WaveSpectra設定画面

今回は入力(録音)を
  • デバイス:IN 1 (BEHRINGER UMC 202HD 192k)
  • フォーマット:192000Hz, 24bit
に設定します。


サンプルデータ数・窓関数
入力デバイス・フォーマットと同じ設定画面で『FFT』を選択し設定します。
WaveSpectra設定画面

今回は
  • サンプルデータ数:131072(最高のサンプルデータ数を選んだだけで意味はありません)
  • 窓関数:Flat top窓(アプリページより。外部発振器を用いる場合等に適しているとの記載があるので)
に設定しています。

これらの項目はいずれも歪率の測定値にかかわる項目なので真面目に検討する必要があるのですが一旦はこの設定とします。


歪率(THD,+N)の表示
初期状態ではこのアプリは歪率(THD,+N)を画面上に表示してくれません。

画面右上の『測定モード』ボタンを押下すると画面下に『THD』ボタンが現れます。このボタンを押すと画面左側に歪率の表示欄が現れます。『THD』ボタンを押すたびに『THD,+N』と『THD, S/N』が交互に表示されるで『THD,+N』を選びます。
歪率表示の設定(WaveSpectra画面)


- 測定方法

画面左上の『』ボタンを押下すると設定したPCのサウンドデバイスからの信号入力の測定が始まります。
歪率測定の開始(WaveSpectra画面)


●使用感

シグナルジェネレータの出力(無負荷時)の歪率(THD,+N)を測ってみました(オシロでアナログ波形のモニターもします)。

測定中~♪


・歪率(THD,+N)の測定

- ①デジタル信号をループバックしての測定(アプリWaveSpectra単体の実力確認)

USBオーディオインターフェースを繋いでのアナログ信号の測定の前に、アプリWaveSpectra単体の実力確認としてPCオーディオジェネレータアプリ(WaveGene)のデジタル出力をデジタル信号のままWaveSpectraにループバックして歪率を測定してみました。
我が家のPCの光デジタル入出力(S/PDIF)は16bit/48kHzです

設定:
  • オーディオジェネレータアプリ(WaveGene)出力:0dB@1kHz, 正弦波

測定結果
  • 歪率(THD,+N):THD=0.00083%, +N=0.0090%
十分低いですね。WaveSpectraの歪率計の測定精度は私の用途(オーディオアンプの歪率測定)では十二分に使えると思います。
WaveSpectraの測定精度確認


- ②シグナルジェネレータ出力の測定

次にUSBオーディオインターフェースを繋いで、シグナルジェネレータ出力の歪率(THD,+N)を測定してみました。

設定:
  • シグナルジェネレータ出力:1Vpp@1kHz, 正弦波
  • USBオーディオインターフェース(マイク/ライン入力※):入力ボリューム:中央(12時)、PAD:OFF
※:本USBオーディオインターフェースには入力(マイク or ライン)を切り替えるスイッチがありません。恐らく入力ボリュームとPADの設定でマイクレベル~ラインレベルまで受けられる回路構成なのだと思います(取説にブロック図が欲しいなぁ)。
1kHz, 正弦波, 1Vpp

測定結果:
  • 歪率(THD,+N):THD=0.33%, +N=0.52%
WaveSpectra画面

比較する正確な歪率計が無いのでこの測定値がどの程度正しいのかが本当のところは分からないのですが😅、今回使ったシグナルジェネレータの仕様は歪率0.8%以下(@1kHz)なのでぼちぼちだと思います。

ちなみにアナライザアプリの設定項目の『サンプルデータ数・窓関数』を変更しても歪率の測定値に大きな差異はありませんでした。

【参考】behringer UMC202HDの周波数特性の影響
今回使用しているUSBオーディオインターフェース(behringer UMC202HD)は計測器ではないので、100kHz以下でも周波数特性を持っています。なのでシグナルジェネレータから出力される高い周波数成分は低く測定してしまうので、厳密に言えばその分歪率の測定値も小さく出てしまいます。

そこで実際にUSBオーディオインターフェースの周波数特性を測ってみました。
(比較としてシグナルジェネレータの出力をオシロでも測定しました。)

設定:
  • シグナルジェネレータ出力:1Vpp@正弦波
  • USBオーディオインターフェース(マイク/ライン入力):入力ボリューム:中央(12時)、PAD:OFF

USBオーディオインターフェースの周波数特性はWaveSpectraのRMS値を測定

40kHzまでは-1dB以内なので、オーディオ帯域(20~20kHz)の正弦波の歪率を測る私の用途では当てにしていい測定値が得られると思います。


・測定可能な周波数範囲

今回使用しているハード(behringer UMC202HD)は96kHzまでの入力信号に対応していて(サンプリング周波数192kHz)、アプリ(WaveSpectra)は100kHzまでのFFTに対応しているので、20kHzの信号ならは4次高調波まで測ることができます。オーディオ信号(20~20kHz)の歪率を測定するという観点ではぼちぼち使えると思います。

設定:
  • シグナルジェネレータ出力:1Vpp@20kHz, 正弦波
  • USBオーディオインターフェース(マイク/ライン入力):入力ボリューム:中央(12時)、PAD:OFF
20kHz, 正弦波, 1Vpp

測定結果:
  • 歪率(THD,+N):THD=0.31%, +N=0.61%
WaveSpectra画面

【参考】
信号周波数のが48kHzを超えると(高調波が検出できないので)歪率(THD,+N)は0%となってしまいます😅。

試しに49kHzの方形波の歪率を測ってみました。

設定:
  • シグナルジェネレータ出力:1Vpp@49kHz, 方形波
  • USBオーディオインターフェース(マイク/ライン入力):入力ボリューム:中央(12時)、PAD:OFF
49kHz, 方形波, 1Vpp

測定結果:
  • 歪率(THD,+N):THD=0%, +N=0.13%
方形波@49kHzでは歪率(THD)は0%(WaveSpectra画面)


・最大入力レベル

本件はUSBオーディオインターフェースの入力ボリューム、PADに依存するので設定を変えて波形がクリップしない入力レベルを確認してみました。
USBオーディオインターフェースの入力ボリュームとPAD
設定:
  • シグナルジェネレータ出力:1kHz, 正弦波
  • USBオーディオインターフェース:マイク/ライン入力
測定結果:
  • 入力ボリューム:最大、PAD:OFF:0.05Vpp(THD=0.10%, +N=0.74%)
  • 入力ボリューム:最大、PAD:ON:0.28Vpp(THD=0.10%, +N=0.64%)
  • 入力ボリューム:中央(12時)、PAD:OFF:1Vpp(THD=0.34%, +N=0.52%)
  • 入力ボリューム:中央(12時)、PAD:ON:10Vpp(THD=0.94%, +N=1.29%)
入力ボリュームを更に絞ればもっと大きな入力が可能だと思います。


●システムの改善したい点

  • USBインターフェースのオーディオ端子のGNDとUSB端子のGNDは絶縁されていません。測定器として使うにはちょっと不安ですね(既製品の楽器やマイクを繋ぐわけではないので)。本件は引き続き検討していきますね😋。

【2024.9.21追記】
本件、安価なUSBアイソレータ(480Mbps対応)を見つけました!既に動作も確認済みです。いい感じですよ😋。
リンク(本ブログ内🔗):『480Mbps対応のUSBアイソレータを使って実験用測定器からPCを絶縁する(DSD TECH SH-G01L使用)


●ハードの改善要望点

  • USBオーディオインターフェース(behringer UMC202HD)の取説(クイックスタートガイド)にブロック図が欲しいなぁ。コンシューマー向けの楽器の録音では要らないのかなぁ。


●まとめ

オーディオアナライザアプリと24Bit/192kHzのUSBインターフェースとの組み合わせで結構使えるオーディオ歪率をが格安で実現することができました。

楽器もやらないし、ユーチューバーでもない私がまさかbehringerの機材を所有することになるとは思いませんでした。ちょっとニヤニヤしています🤭。
behringerのオーナーになっちゃいました🤩

今回使用したPCアプリWaveSpectraは歪率の計測以外にもオーディオアナライザとして豊富な機能を備えていますし、またUSBオーディオインターフェースはオーディオジェネレータとしても使えます。

本件については別途紹介しますね😋。


○参照サイト(外部リンク ⧉)




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