【連載】オーディオ用USB電源(音質重視のリニア電源)をかなり真面目に作ってみる [ー 随時更新 ー]

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DAC(DAコンバーター)とかヘッドフォンアンプとかUSBを電源とした高音質を謳うオーディオ機器が最近多いですが、ありそうで無いのが(というか実はあるけど高価な)オーディオ用のUSBリニア電源。

市販品は私にとってはあまりにも高価なので自作することにしました!(後々いろいろいじれるし😄)

さあ、音好きアナログハード屋の本領発揮ですっ!

この記事は長期戦になりそうなので(いや、確実になるので😋)、連載記事にしますね。


■【連載】オーディオ用USB電源(音質重視のリニア電源)をかなり真面目に作ってみる

本連載は目次の一番下『1.』がスタート記事です。

4.【2022.04.04】主要部品選定 その3:”電源トランス”

今回は主要部品3点(電源トランス、整流ダイオード、レギュレータ素子)の第三弾です。

今回は電源トランスの選定を行います。

回路図だとココです。
今回の目次
4-2-1-1. トランスの出力電圧
4-2-1-2. トランスの電力容量(VA)
4-2-1-3. トランスの安全性
4-2-2-1. ドランスの出力電圧
4-2-2-2. トランスの電力容量(VA)
4-2-2-3. トランスの安全性


4-1. 電源トランスの選定基準

今回はトランスですので
  • 出力電圧
  • 電力容量(VA)
  • (AC1次側で使用するので)安全性は大丈夫な構造か?
の3点を選定基準として必要なスペックを決めることにします。


4-2. 必要スペックの決定

本ブログで作ろうとしている電源はDC12VとDC5Vの2つの電圧出力に対応させようとしています。
前回までレギュレータ素子・整流ダイオードの選定の際には電源の最大出力電圧(DC12V)と最大出力電流(DC2A)組み合わせで考えてきましたが、電源トランスの出力はレギュレータ素子の損失や整流ダイオードの耐圧に大きく関わるので、ここでは電源の出力電圧(DC12V/DC5V)にケースを分けて必要なスペックを決める事にします(結果として、電源トランスの出力は複数タップを切り換えることを前提にします)。


4-2-1.出力DC12V/1Aの場合

まずは電源出力がDC12V/1Aの場合についてです。


4-2-1-1.トランスの出力電圧 [電源出力DC12V/1A]
最初にトランスに必要な出力電圧を決めます。
電源出力:DC12V/1A

電源トランスの出力電圧は、整流ダイオードに必要な入力電圧として電源の出力電圧とレギュレータICの電圧降下、整流ダイオードの電圧降下より求めることになります。
  • 電源の出力電圧:12V
  • レギュレータICの電圧降下:3V(この値の詳細は前々回記事を参照ください)
  • 整流ダイオードの電圧降下:1.84V(この値の詳細は前回記事を参照ください)
※:整流ダイオードの電圧降下はダイオードに流れる電流によって変化しますが、ここでは(整流ダイオードの選定の時に求めた)電流3A時の値を暫定的に使用しています。 

これより
[整流ダイオードの入力電圧] 
= [電源の出力電圧(12V)] 
+ [レギュレータICの電圧降下(3V)] 
+ [整流ダイオードの電圧降下(1.84V)] 
= 16.84Vpeak
= 11.9Vrms 
が電源トランスの出力に必要な電圧となります。
電源出力:DC12V/1A

電源の出力は直流(DC)ですが、トランスの出力は交流(AC)なので、実効値で考えると11.9Vrmsとなります。

○必要スペック(出力電圧 [電源出力DC12V/1A]):11.9Vrms以上


4-2-1-2. トランスの電力容量(VA) [電源出力DC12V/1A]
お次は電源トランスに必要な電力容量(VA)を求めることにします。

ここで考慮しなくてはならないのは、出力電流は直流(DC)であり、整流ダイオードを流れるのは交流(AC)であることです。

ここでは電源トランスの出力電力と、電源の出力電力・レギュレータICの損失電力・整流ダイオードの損失電力が等しくなるとして、整流ダイオードの出力電流(Id)を求めることにします。
  • 電源トランスの出力電力(交流AC):11.9Vrms ✕ Id
  • 電源の出力電力(直流DC):12V ✕ 1A
  • レギュレータICの損失電力(直流DC):3V ✕ 1A
  • 整流ダイオードの損失電力(交流AC): 1.84V ✕ Id
電源出力:DC12V/1A

これより
[電源トランスの出力電力(11.9Vrms ✕ Id)] 
= [電源の出力電力(12V ✕ 1A)] 
+ [レギュレータICの損失電力(3V ✕ 1A)] 
+ [整流ダイオードの損失電力(1.84V(※1) ✕ Id)]
(※1:整流ダイオードの電圧降下は3A時のこの値よりも小さくなりますが…😅。)

この式を解くと
Id = 1.49A
 となります。
(交流回路なので、本来は力率(≒無効電力)を考慮しなくてはならないのですが、一旦この数値で設計を進めます。)

よって電源トランスに必要な電力容量は
11.9Vrms ✕ 1.49A ✕ 2回路 = 35.5VA

○必要スペック(電力容量(VA) [電源出力DC12V/1A]):35.5VA以上


4-2-1-3. トランスの安全性 [電源出力DC12V/1A]
電源トランスはACの一次側と二次側を絶縁する部品ですので、安全上最も重要な部品のひとつです。
日本国内で使用する機器の場合ですが、安全に関する法規である『電気用品安全法』に必要スペックが規定されています:
  • 絶縁耐圧:1414V
  • 絶縁抵抗:4MΩ
(この値は技術基準IEC60065の強化絶縁、動作電圧(ピーク)142Vの場合です(対象製品や使用製品によって値は変わります)。細かく言うと部品内部で使っている材料などの規定もありますが…。)

またトランスの部品仕様に『絶縁種別(グレード)』が記載されていれば、安全法規を意識した設計を行っていることが分かるので安心ですね(まあ、トランス屋さんが意識していないことはないと思いますが、海外メーカーだったりすると万が一ということもありそうなので…😅)。

○必要スペック(安全性 [電源出力DC12V/1A]):
  • 絶縁耐圧:1414V以上
  • 絶縁抵抗:4MΩ以上
  • 絶縁種別(グレード)の記載があればなお良い

4-2-2.出力DC5V/2Aの場合

お次は電源出力がDC5V/2Aの場合についてです。やること(計算すること)はDC12V/1Aの場合と全く一緒です。


4-2-2-1.トランスの出力電圧 [電源出力DC5V/2A]
最初にトランスに必要な出力電圧を決めます。
電源出力:DC5V/2A

電源トランスの出力電圧は、整流ダイオードに必要な入力電圧として電源の出力電圧とレギュレータICの電圧降下、整流ダイオードの電圧降下より求めることになります。
  • 電源の出力電圧:5V
  • レギュレータICの電圧降下:3V(この値の詳細は前々回記事を参照ください)
  • 整流ダイオードの電圧降下:1.84V(この値の詳細は前回記事を参照ください)
※:整流ダイオードの電圧降下はダイオードに流れる電流によって変化しますが、ここでは(整流ダイオードの選定の時に求めた)電流3A時の値を暫定的に使用しています。 

これより
[整流ダイオードの入力電圧] 
= [電源の出力電圧(5V)] 
+ [レギュレータICの電圧降下(3V)] 
+ [整流ダイオードの電圧降下(1.84V)] 
= 9.84Vpeak
= 7.0Vrms 
が電源トランスの出力に必要な電圧となります。
電源出力:DC5V/2A

電源の出力は直流(DC)ですが、トランスの出力は交流(AC)なので、実効値で考えると7.0Vrms(DC5V出力)となります。

○必要スペック(出力電圧 [電源出力5Vの場合]):7.0Vrms以上


4-2-2-2. トランスの電力容量(VA) [電源出力DC5V/2A]
お次は電源トランスに必要な電力容量(VA)を求めることにします。

ここで考慮しなくてはならないのは、出力電流は直流(DC)であり、整流ダイオードを流れるのは交流(AC)であることです。

ここでは電源トランスの出力電力と、電源の出力電力・レギュレータICの損失電力・整流ダイオードの損失電力が等しくなるとして、整流ダイオードの出力電流(Id)を求めることにします。
  • 電源トランスの出力電力(交流AC):7.0Vrms ✕ Id
  • 電源の出力電力(直流DC):5V ✕ 2A
  • レギュレータICの損失電力(直流DC):3V ✕ 2A
  • 整流ダイオードの損失電力(交流AC): 1.84V ✕ Id
電源出力:DC5V/2A

これより
[電源トランスの出力電力(7.0Vrms ✕ Id)] 
= [電源の出力電力(5V ✕ 2A)] 
+ [レギュレータICの損失電力(3V ✕ 2A)] 
+ [整流ダイオードの損失電力(1.84V(※2) ✕ Id)]
(※2:整流ダイオードの電圧降下は3A時のこの値より微妙に違いますが…😅。)

この式を解くと
Id = 3.16A
 となります。
(交流回路なので、本来は力率(≒無効電力)を考慮しなくてはならないのですが、一旦この数値で設計を進めます。
また、整流ダイオードを流れる電流が3Aより大きくなったので、ダイオードでの電圧降下は1.84Vより大きくなりますが、今時点ではこの値で設計を進め、電源トランスの部品が確定したところで、その仕様によって再度値を確認することにします。)

よって電源トランスに必要な電力容量は
7.0Vrms ✕ 3.16A ✕ 2回路 = 44.2VA

○必要スペック(電力容量(VA)):44.2VA以上


4-2-1-3. トランスの安全性 [電源出力DC5V/2A]
安全性への要求は電源の出力電圧には依存しませんよね。よって12V出力の時と同じです。

○必要スペック(安全性 [電源出力DC5V/2A]):
  • 絶縁耐圧:1414V以上
  • 絶縁抵抗:4MΩ以上
  • (絶縁種別(グレード)の記載があればなお良い)


4-2-3.必要スペックのまとめ 

上記で求めた必要スペックを1つのトランスで実現するためにまとめます。

上記しましたが電源トランスを流れる電流・電圧は交流なので本来は力率(≒無効電力)を考慮するがあります。また実際に選定したトランスの出力電圧が上記で検討したよりも大きくなると、トランスの電力容量は44.2VAよりも大きな値となる可能性がありますが、一旦はこの値を目安として、部品選定を進めます。部品としてはこれより十分に大きな電力容量のものを選定することにします。
電源トランスの部品が確定したところで、その仕様によって再度各値を確認することにします。


4-3. 選定した電源トランス:HT-125(豊澄電源機器)

実際の部品の選定は上記のようなことを考慮しつつ、入手可能な部品を探しながら決めていくことになります。

改めて必要なスペックを列挙すると
  • 出力電圧:
    • 電源出力12Vの場合:11.9Vrms以上
    • 電源出力5Vの場合:7.0Vrms以上
  • 電力容量:44.2VA以上(で十分に余裕があること)
  • 安全性:
    • 絶縁耐圧:1414V以上
    • 絶縁抵抗:4MΩ以上
    • (絶縁種別(グレード)の記載があればなお良い)
となります。

この条件に合うものとして、ネットであれやこれや探しました。

見つけたのはコレです。
HT-125(豊澄電源機器) - 秋月電子

既に生産中止の部品のようですが、まだまだ入手可能です。
今回の電源の仕様にこのトランス(HT-125)のスペックが合うかどうかをトランスのデータシートで確認してみると
  • 入力電圧:100V, 110V
  • 出力電圧:6V, 8V, 10V, 12V
  • 出力電流:5A
  • 電力容量:60VA
  • 絶縁抵抗:100MΩ以上
  • 絶縁耐圧:1.5kV
  • 絶縁種別:A種
電源トランス:HT-125(部品データシートより)

で、必要なスペックと比較するとそれぞれの項目でOKですね♪

電力容量は60VAなので、上記で一旦無視した力率を考慮しても大丈夫そうです(経験による判断です😋)。最終的には温度上昇を実測した上で、電源として取り出せる電流を決めることになりますが…😅。

また電源出力がDC12V/1Aの時に必要なトランスの出力電圧(11.9Vrms以上必要なのに対して12Vrms出力)は全く余裕がありませんが、ここら辺も実物での実測で確認していくことにします😋。

そんな訳で電源トランスはHT-125に決定しました。


4-4. 【おまけ】前回選んだダイオードは大丈夫?

前回整流ダイオードを選定したときには、トランスの出力電圧は仮置の値で設計を進めましたので、今回のトランスの選定結果を踏まえて、ダイオードの耐圧は結局大丈夫か?という観点で確認しておきます(アナログ回路の設計は行ったり来たり😅)。

整流ダイオードに必要な耐圧は
[整流ダイオードに必要な耐圧] 
= [電源トランスの出力電圧(最大)]  
= 12Vrms
≒ 17Vpeak
となるので、前回選定した整流ダイオード(D5FB20)の耐圧(200V)なら楽勝!ですね。


今回で主要部品の選定は終わりです。

ここまでくれば設計はほぼ終わった感がありますが、アナログ回路(特に電力系)はここからが勝負でもあります😎。
次回からはこれまでに選定した部品の実力の確認(実測)を予定しています😋。





3.【2022.03.11】主要部品選定 その2:”整流ダイオード”

今回は主要部品3点(電源トランス、整流ダイオード、レギュレータ素子)の第二弾です。

今回は整流ダイオードの選定を行います。

回路図だとココです。
今回の目次
3-2-1. 耐圧
3-2-2. 出力電流
3-2-3. 放熱構造 


3-1. 整流ダイオードの選定基準

今回はダイオードですので
  • 耐圧
  • 出力電流
  • 放熱(温度上昇)は大丈夫な構造か?
の3点を選定基準として必要なスペックを決めることにします。


3-2. 必要スペックの決定

3-2-1. 耐圧

最初にダイオードに必要な耐圧を決めます。

この値は整流ダイオードに必要な入力電圧として、電源の出力電圧とレギュレータICの電圧降下、整流ダイオードの電圧降下より求めることになります。
  • 電源の出力電圧:最大12V
  • レギュレータICの電圧降下:3V(この値の詳細は前回記事を参照ください)
  • 整流ダイオードの電圧降下:2V(※1)
※1:整流ダイオードの電圧降下はこの程度を考慮しておけば大丈夫だろうという経験値です。今回の回路は全波整流方式なので、ダイオード2個分で2Vとしています。
 
これより
[整流ダイオードの入力電圧] 
= [電源の出力電圧(12V)] 
+ [レギュレータICの電圧降下(3V)] 
+ [整流ダイオードの電圧降下(2V)] 
= 17V
 が整流ダイオードの入力に必要な電圧となります。

実際には電源トランスの出力電圧が整流ダイオードの入力電圧になるのですが、電源トランスを適切に20V程度に選べば、整流ダイオードの耐圧としても20V程度あれば十分なようです。
なので、どこにでもある整流ダイオードで耐圧的にはよさそうですね。

○必要スペック(耐圧):20V程度以上


3-2-2. 出力電流

お次は整流ダイオードに必要な出力電流を求めることにします。

ここで考慮しなくてはならないのは、出力電流は直流(DC)であり、整流ダイオードを流れるのは交流(AC)であることです。

ここでは電源トランスの出力電力と、電源の出力電力・レギュレータICの損失電力・整流ダイオードの損失電力が等しくなるとして、整流ダイオードの出力電流(Id)を求めることにします。
  • 電源トランスの出力電力(交流AC):12Vrms(※2) ✕ Id
  • 電源の出力電力(直流DC):12V ✕ 2A
  • レギュレータICの損失電力(直流DC):3V ✕ 2A
  • 整流ダイオードの損失電力(交流AC): 2V ✕ Id
※2:上記の整流ダイオードの耐圧検討の時にダイオードの入力電圧(=電源トランスの出力電圧)は17Vと見積もりましたが、この値は直流(DC)相当の値で交流(AC)的には17Vpeak=12Vrmsとなります。

これより
[電源トランスの出力電力(12Vrms ✕ Id)] 
= [電源の出力電力(12V ✕ 2A)] 
+ [レギュレータICの損失電力(3V ✕ 2A)] 
+ [整流ダイオードの損失電力(2V ✕ Id)]
この式を解くと
Id = 3A
 となります。

整流ダイオードを流れる電流・電圧は交流なので本来は力率(≒無効電力)を考慮するがあり、上記で検討した3Aよりも大きな値となる可能性があります。が、一旦はこの3Aを目安として、部品としてはこれより十分に大きな電流のものを選定することにします。

○必要スペック(出力電流):3A以上


3-2-3. 放熱構造

次に整流ダイオードの電力損失を見積もって放熱の要否を確認します。
[整流ダイオードの電力損失の見積もり] 
= [電圧降下(2V)] 
+ [出力電流(3A)] 
= 6W以上
という訳で整流ダイオードに放熱板(ヒートシンク)を付ける事は必須になりますね。

○必要スペック(放熱構造):放熱板(ヒートシンク)取り付け可能


3-3. 選定した整流ダイオード:D5FB20(新電元)

実際の素子の選定は上記のようなことを考慮しつつ、入手可能な素子を探しながら決めていくことになります。

改めて必要なスペックを列挙すると
  • 耐圧:20V程度以上
  • 出力電流:3A以上(で十分に余裕があること)
  • 放熱構造:放熱板(ヒートシンク)取り付け可能
となります。

この条件に合うものとして、近所のパーツ屋でD5FB20という懐かしい部品を見つけました。とっくの昔に生産中止になっている筈ですがまだ市場在庫があったんですね😋。
D5FB20(新電元)

今回の電源の仕様にこのダイオード(D5FB20)のスペックが合うかどうかをダイオードのデータシート(注:部品が古すぎてメーカのオフィシャルサイトではデータシートを見つけることはできませんでした😅)で確認してみると

電流は最大5A流せるので、力率を考慮しても大丈夫そうです。
また放熱板(ヒートシンク)については実際の温度上昇を確認しないとなんとも言えませんが、まあ最悪ヒートシンクを更に追加することもできますし😅。

そんな訳で整流ダイオードはD5FB20に決定しました。


3-4. 【おまけ】次の部品選定へ向けて 

次回は電源トランスを選定します。
次回の選定部品(電源トランス)

電源トランスの出力電圧を決めるのに必要になるのが、今回選定した整流ダイオードの実際の入出力の電圧降下(電位差)です。
上記の放熱構造の検討では概算値(経験値)を使いましたが、データシートより実際の電圧降下を求めます。

電流値3Aの時の電圧降下は0.92Vですね。
D5FB20の3A時の電圧降下は0.92V(D5FB20データシートより)

なので、電源トランスの出力に必要な電圧は
[電源トランスの出力電圧の見積もり] 
= [電源の出力電圧(12V)] 
+ [レギュレータICの電圧降下(3V)] 
+ [整流ダイオードの電圧降下(0.92V ✕ 2個(※3))] 
= 16.84Vpeak
= 11.9Vrms
※3:今回は全波整流方式を採用しているので、整流ダイオードでの電圧降下はダイオード2個分で0.92V ✕ 2個 = 1.84Vとなります。
となります。
電源トランスの出力に必要な電圧

という訳で、次回は電源トランスを選定する予定です。



2.【2022.02.09】主要部品選定 その1:”レギュレータ素子”

前回暫定的な仕様を決めましたので、今回からは主要部品3点(電源トランス、整流ダイオード、レギュレータ素子)の選定を紹介していきます。

最初の今回は電源の核となるレギュレータ素子(レギュレータ回路の電圧安定化素子)の選定を行います。
今回の目次


2-1. レギュレータ素子種類(回路方式)の選定基準

今回、出力電圧を安定化するためのレギュレータ素子種類(回路方式)の候補として挙げたのは以下の3つです:
  • トランジスタ (ディスクリート部品)
  • リニアレギュレータIC [一般]
  • リニアレギュレータIC [LDO:低損失]
それぞれの(イマドキの素子の)一般的な電気的特徴を一覧にまとめると次の表のようになります。
各素子の一般的な電機的特徴とその比較

本記事では
  • 必要な電圧が取り出せるか?(出力電圧)
  • 必要な電流が取り出せるか?(出力電流)
  • 保護回路が容易に実現できるか?
  • 放熱は大丈夫な構造か?
の4点を選定基準として素子種類(回路方式)を決定し、更に必要なスペックを決めます。


2-2. 素子種類(回路方式)の選定・必要スペックの決定

2-2-1.出力電圧

今回の出力電圧は5Vと12Vなので、どの素子でも問題ありません。

ちなみに入力電圧に関してもトランスを適切に選定すれば素子にとって過大な電圧にはならないのでどの素子でも問題ありません。

○必要スペック(出力電圧):
  • 最低:5V以下
  • 最大:12V以上

2-2-2. 出力電流

とにかく今回は最大2Aを取り出したいので、それを実現する素子を探すと(入手性も含めると)残念ながらLDOリニアレギュレータICは最大1.5Aぐらいなので適当なものが見当たりませんでした。

よって、早くもここで『トランジスタ』か『リニアレギュレータIC [一般]』の2択になってしまいました😅。

○必要スペック(出力電流):2A以上


2-2-3. 保護回路

音質追求ならトランジスタの一択ですが(個人の感想です)、今回設計するのは素子の出力を機器外に直接出す電源になるので、過電流保護は必須です。

そうなると途端にトランジスタ(ディスクリート部品)での設計は回路規模も大きくなってしまって結構大変なので、ここではリニアレギュレータIC [一般]を選択する事にしました。

この時点であっという間に素子候補は『リニアレギュレータIC [一般]』に決定です😅。

○必要スペック(保護回路):
  • 過電流保護:有り
  • 過温度保護:有り


2-2-4. 放熱構造

素子(回路方式)が決まってしまったので、ここで新たな電気的な要求項目を挙げることはできませんね😅。

一般的なリニアレギュレータICは(内部回路方式的に)他の素子に比べて電圧降下が大きいので電力損失が大きくなってしまいます。損失を簡単に見積もってみますが、
・リニアレギュレータIC [一般]の電力損失の簡易見積もり:
[電圧降下(2V程度。一般的な値)] ✕ [出力電流(2A。今回必要な値)] = 4W以上
という訳でICに放熱板(ヒートシンク)を付ける事が必須になります。

○必要スペック(放熱構造):放熱板(ヒートシンク)取り付け可能


2-2-5. そのほか(音質など)

そのほかリニアレギュレータIC [一般]には気になるところもありますが、以下の通りに割り切ります:
  • 音質:素子以外のところも含めてのチューニングを頑張ります😋(回路方式としてリニア電源を選択している時点で音質はまずまず良いので)。


2-3. 選定したレギュレータ素子(部品):LM350T(Texas Instruments)

実際の素子の選定は上記のようなことを考慮しつつ、入手可能な素子を探しながら決めていくことになります。

改めて必要なスペックを列挙すると
  • 出力電圧:
    • 最低:5V以下
    • 最大:12V以上
  • 出力電流:2A以上
  • 保護回路:
    • 過電流保護:有り
    • 過温度保護:有り
  • 放熱構造:放熱板(ヒートシンク)取り付け可能
となります。

この条件に合うものとして、秋月電子で販売しているLM350Tの安定化電源キットを見つけました。LM350というと古式ゆかしいLM317の流れを汲むレギュレータICですね😋。
レギュレータIC:LM350T (Texas Instruments)

今回の電源の仕様にこのIC(LM350T)のスペックが合うかどうかをICのデータシートで確認してみると

電流は最大3A流せて、過電流保護・過温度保護もついているので今回の用途にはバッチリです。
また放熱板(ヒートシンク)に取り付け可能なパッケージ(TO-220)なので容易に十分な放熱を行うこともできますね。
(【おまけ】このレギュレータICはノイズの抑圧量が優れていてオーディオマニアには人気のようですが、そこら辺が音質と直結するかどうかは私は懐疑論者なので、今回の素子選択ではあまり考慮していません😋。)

そんな訳で素子はLM350Tに決定しました。


このICを使った秋月電子の安定化電源キットはコレです。
大容量出力可変安定化電源キット LM350T使用 最大3A - 秋月電子

キットの回路図はこんな感じです(キットに含まれる部品は赤枠内のみ)
LM350T安定化電源キット(秋月電子)付属の回路図より

このキットは
  • (部品だけでなく)専用プリント基板付き:制作が容易
  • 出力可変(半固定抵抗付き):完成後の5V、12Vの変更が容易
  • 安価(450円):専用プリント基板やスタッド、絶縁ワッシャー等までついてこの価格はお得です♪
なので今回の用途には良さげです。
(【おまけ】音質的な観点で言えばこのキットのプリント基板のパターンは気になるところがありますが(個人の感想です)、この基板は改造に耐えうる広いパターンなので、音質チューニングの時にはパターンの改造(改良?)にもトライしたいと考えています😋。)

今回はこの安定化電源キットを使用することにしました。


2-4. 【おまけ】次の部品選定へ向けて 

次回は整流ダイオードを選定します。
次回の選定部品(整流ダイオード)

その時に必要になるのが、今回のレギュレータICに必要な入出力の電圧降下(電位差)です。
上記の放熱構造の検討ではさらっと『2V程度』と書きましたが、この数値はレギュレータICの電力損失にも関わるので少ないに越したことはありません。
ICのデータシートを確認すると、この数値自体はどこにも直接定義していませんが、各種スペックを定義する欄で『3V以上』を規定しています。
LM350の入出力の電圧降下(電位差)は3V以上必要っぽい(LM350データシートより)

作成の段階に入ったら実測してみますが、今の段階では確認する術がないので一旦はこの数値で設計を進めます。
レギュレータIC(LM350T)の電圧降下(損失)

ICの電力損失は放熱構造の検討の時より増えちゃいましたね😅。
・LM350Tの電力損失の見積もり:
[電圧降下(3V以上)]  [出力電流(2A。今回必要な値)] = 6W以上
まあ、放熱板(ヒートシンク)取り付け可能なICを選定したので今の段階ではOKとします😋。

という訳で、次回は整流ダイオードを選定する予定です。





1.【2022.01.04】まず目標(暫定要求仕様)を決める

今回の目次


1-1. 狙っているところ

我が家のオーディオ伝送はほぼデジタル化しているのですが、アナログ伝送をしているところもあります。Alexa(Amazon Echo)のオーディオ出力です。
実はもう一箇所ありますが…😅。

電源をキレイにしたいのはAlexaとADコンバーターの両方なので、作成する電源はこの2つに対応することをベースにします。
  • 出力電圧:5Vが基本ですが、ちょっと欲張って12V出力にも対応するのようにします。
  • 出力電流:AlexaやADコンバーターは大した電流は食わないのですが、大抵1A程度のACアダプターが付属しています。ここでは頑張って2Aを狙います(12Vの場合は1A以上で取れるだけ)。
そこで考えたのが以下のざっくりとした要求仕様(暫定)です。


1-2. ざっくりとした暫定要求仕様

  • 入力:AC100V 50/60Hz
    • 入力コネクタ:コード直出しにするかACインレットにするか検討中
  • 出力:DC5V(2A)/DC12V(1A)(切替式) :2系統
    • 出力コネクタ:USB type-A(メス)
  • 方式:リニア電源
  • 冷却方式:自然空冷(音質のために作るのですからFAN無しです😋)
  • 使用温度範囲:0~45℃(地球温暖化も考慮して我が家での常時通電を考えるとコレぐらいの値ですかね。寿命計算用の平均温度は25℃とします)
  • 寿命(主に電解コンデンサ):常時通電で5年(周囲温度25℃。まあ、5年ぐらいなら交換してもいいですかね)
  • 保護回路:
    • 過電流保護(外部出力を持つ電源としては必須ですね。本当は温度保護も付けたいところですが難しいかなぁ。)
    • ヒューズは系統毎に独立
  • 表示:各系統の電圧(電流・機内温度は検討中)
  • 安全面:IEC-J60065にできるだけ準拠(※)
  • ケース:金属ケース(万が一内部で不具合が起きた時にもケース外側に延焼等の影響が及ばないように)
  • サイズ:成り行きで…(後々の改造(改良😅?)も含めて大きめで)
  • 重さ:こちらも成り行きで…😅
  • 予算:1万円程度でできるだけ安く(真面目に金属ケースを使って作るとコレぐらいはかかってしまうと思います)
※音質のために本機を作成しますが、安全性は音質に優先します。常時通電で使用するので、細心の注意を払います。

ある程度部品に当たりを付けているのもあって、こんな感じの要求仕様にしてみました。


1-3. ざっくりとしたブロック図

上記の暫定仕様をブロック図にするとこんな感じです。
目指すUSBリニア電源のざっくりとしたブロック図


1-4. そして設計・作成方針!

最後に大切な設計・作成方針を決めておきます(コレを決めておかないとやり始めるといろいろブレるので…😅)。

ー ”かなり真面目に作るUSBリニア電源”の設計・作成方針 ー
  • 安全第一:AC1次側の安全性はもちろん、出力の過電流保護などもできる限り
  • 安定した音質のためには作り易さも大切:完成後の改造(改良😅?)もし易く
  • その上でより良い音質を目指します!
  • (一品モノなので、部品バラツキは考慮しません。現物の部品の数値に合わて作成を進めます。)


今回はここまでです。
次回は主な部品の選定をやりたいと思っています。





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